演戯集団ばぁくぅ「佐藤順一一人芝居『陽気な客』」

佐藤順一一人芝居「陽気な客」、.jpg

原作:山本周五郎、演出:佐藤順一。上演時間は75分。午後3時からアトリエ戯座で観た。

「陽気な客」は1949年初出の短編小説で、周五郎の須磨時代を題材にしている。
周五郎が友人の文士(文中では“おれ”)から飲み屋で、仲井天青という人物の話を聞かされる、ひとり語りの小説だ。
“おれ”は神戸の“神戸夜話社”という怪しげな雑誌社で、仲井天青とともに働いていた。仲井天青はかっては劇団を主宰して、小山内薫の自由劇場の向こうを張るような活躍をしていたのだが、いまは“神戸夜話社”の主筆に落ちぶれている。“おれ”の話は、そんな雑誌社の人たちを活写する。


演戯集団ばぁくぅは、佐藤順一の読演会で毎月新作を月に4ステージ上演していて、すでに135回を数える。その内容は多彩だ。
今年5月には新作舞台を上演して、そのDVDを発売した。ほんとに、コロナ禍でも手を緩めることなく活動を続けている。

この佐藤順一一人芝居「陽気な客」は、ばぁくぅがレパートリー作品として上演していく目的で企画・制作された。
今年6月に初演され、この8月の上演のあと、9月にも上演される。100回の上演を目指すという。


75分の全編、同じ衣装で、装置も変わらない。照明もほとんど固定で、音楽も音響もほとんど使われない。語りの魅力で見せる。
佐藤順一は、語り手の“おれ”のほか、登場する数人をよどみなく演じ分ける。その語りは絶妙だ。

ただ、原作小説をほぼそのまま演じるということもあってか、途中で少し眠くなった。
佐藤はこの作品について、「やさぐれ文士の鎮魂歌か、はたまたひかれ者の小唄か?」と紹介している。確かにそんな“哀感”が狙いだ。
それぞれの人物の言葉のなかに、“哀感”を支えるドラマはあり、そこを人物の個性とともにさらに際立たせてほしいと感じた。

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